青薔薇の花嫁 番外編 『青薔薇は艶やかに淫れ散る』

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 多くの永田町の人間を顧客に持つ、赤坂の高級料亭「秋月」。
 見事な日本庭園を堪能できる「牡丹の間」と呼ばれる座敷には、立派な檜風呂が備えつけられていた。
 保科優月は湯浴み後の体を拭うと、衣装盆の中にある艶かしい衣装を手に取る。
 時代劇の遊女が身に着けるような緋色の襦袢――。
 女将に用意させたのだろうが、物好きな小山内らしい趣向だ。
 素肌に纏うように指示された。

(これを着て、先生に……)

 今宵から小山内の愛人になる。
 次期国政選挙に出馬するに際して、与党入りし公認を得るため、保科家と縁がある内閣官房長官の彼に縋った。
 裏切り者扱いされ党から追放された、代議士だった亡き父の地盤を守るため、不本意ながらも小山内を頼るしかなかった。
 代償は一億の献金と優月の体。
 恋い焦がれる相手がいる身にはつらい要求だった。
 けれど都議会議員としても未熟で、永田町に有益なコネクションのない自分には逡巡の余地などない。
 湯上りの火照った体に襦袢を纏い、細い帯を締め、優月は小山内の元へと重い足取りを向ける。
 用意された衣装ばかりではない。
 寝床が設えられた和室にも、呆れるほどの演出が施されていた。
 障子を透かして注ぐ月明かり。
 ほの暗い空間に、一対のぼんぼりが柔らかい光を放つ。
 鮮やかな牡丹が描かれた、ついたてや几帳――古風で雅びな調度を背景に、真っ赤な夜具が並べて敷かれていた。
 まるで遊郭のように淫靡な情景をこしらえ上げている。
 確かに……自分は遊女も同然だった。
 優月は敷居の前で膝をつき、平伏した。
「お待たせいたしました」
 もっとそばに、と正面から満悦そうな声が飛んでくる。
 優月は腰を上げ、小山内が胡坐をかく布団に近づくと、再び膝を落とす。
 正座の形になる前に、右手を掴み引き寄せられた。
「……っ」
 品のいい絣の着物を纏う小山内の胸元は汗で濡れ、情交の前の肌の火照りを布ごしに伝えてきた。
「今夜がどれほどに待ち遠しかったか……年甲斐もなく指折り数えて待っていたよ」
「先生……」
「愛してるよ、優月」
 小山内は優月の顎を取り、口づけた。
 彼のもう片方の手は、桃色の細い帯が結ばれた優月の腰に回った。
 密着する唇を割り、小山内の舌が優月の口腔内に押し入る。
 不慣れな優月は戸惑う。
 ようやくキスの感触を確かめられるようになったときには、すでに舌が絡み合っていた。
「……ん……っ」
 優月はぞわりと産毛が逆立つ。
 嫌悪感だけではない。
 舌を吸われるたびに、相手の体にしがみつきたくなるような、もどかしい、うずうずした感覚に襲われる。
 それが快感だと気づいた途端、優月は無意識に男から離れようともがいていた。
 小山内は優月の抵抗をものともせず引き寄せる。

(恐い……)

 さまざまな感情が渦巻く胸中で、その思いがとりわけ強く優月を捕らえていた。
 純粋に恐ろしい。
 28歳の今まで、セックスの経験がない。
 キスすら――唇を触れ合わせるだけの軽いものなら、大学時代に同性と一度だけ経験したことがある。
 それがきっかけで、自分に同性をも愛する趣味があることを知った。
 キスひとつで怖気づいている事実からも、小山内は優月が不慣れなことに気づいているだろう。
 彼は息苦しくなるほどに貪ると、ようやく優月を解放し、呼吸を整える。
 そして、崩れそうになる体を布団に両手をついて支える優月の肩に、そっと手をかけた。
「……さすがに高貴な血筋なだけあるな。女郎の身なりをしていても、なんと気高いことよ」
 小山内は襦袢の上から裸体を透かし見るような執拗な視線で、ため息をつく。
「我が主に無邪気に甘えていたあの可愛らしい幼子を、まさかこうして閨で抱く日がこようとは、夢にも思いませんでした」
 酒が入っていることもあり、いかにも楽しげに芝居がかった台詞を口にした。
 小山内は若いころ、優月の父親の公設秘書を務めていた。
 優月のことは赤子のころから知っている。
「姫……。私のものになる、お心は定まりましたか?」
「……はい」
 戸惑いぎみに、しかし深く頷く優月に、小山内はいっそう口の端を吊り上げる。
 優月の右手をうやうやしく取ったかと思えば、やや乱暴に抱きすくめた。
 ぼんぼりの中で灯るロウソクが、優月に同調するようにゆらゆらと不安そうに揺らめいて、二人の影を揺らす。
「民主主義の世に生まれてよかった。昔なら口をきくのすら叶わなかった華族の姫君を妾にできる。平等とは素晴らしい思想だな」
 小山内は優月が身動きできないほどに腕の力をこめ、半乾きの黒髪を宝物を愛でるみたいに撫でた。
 50代半ば近い歳だが、剣道で鍛えた胸板は厚く、優月以上の180センチほどある背丈と若々しい端正な顔立ちで、女性の支持者を引きつけてやまない。
「後悔はさせない。約束どおり入党させ、公認も保証する」
「ありがとうございます」
「堅い話はよそう。妾にしたからには、うんと可愛がってやるからな」
 性に飢えた若い男のような余裕のなさで、小山内は優月を押し倒し、組み敷く。
 優月の首に執拗に口づけながら、片手で器用に帯を解いた。
「……ゃ」
 綺麗に閉じてある襦袢の合わせが、はらりと開く。
 緋色の鮮やかな色彩が、日焼けを知らない肌をさらに白く冴え冴えと見せる。
 小山内の視線が上から下へ、優月の柔肌をゆっくりと舐めていった。
 あまりの恥ずかしさに、あらわになった股間に手を伸ばした優月だが、すぐに赤いシーツの上に追い払われた。
「すみずみまで見せなさい。隠してはだめだ」
「先生……っ」
「いつもは慎ましやかでも、褥では淫らに振る舞うといい。気高さの裏で、貪欲に男を欲しがる淫乱な体になるんだ」
 吐息の乱れ具合を感じ取れるほど、小山内の顔が近づいてくる。
 彼が最初に狙いを定めたのは、股間ではなく、胸の両端に淡く色づくものだった。
「可愛い実だな……まずはここからついばんでやろう」
 右の乳首に舌先が触れてきた。
 苦痛を芽生えさせないように、小山内は力を加減している。
 唾液を塗りつけられ軽く転がされるだけで、優月は背中が仰け反り、びくびくと震えた。
 女のように、乳首がこれほど感じることを初めて知った。
 甘い痺れに身悶えせずにはいられない。
「……ぁ……あ」
「感じやすい乳首だな。ますます気に入った。触れれば触れるほど敏感になってくる。うんと手をかけて、いやらしい乳首にしてやろう」
「……先生……お願い、です……やめ……」
 股間は強張り、燃えるように熱かった。
 はちきれそうな亀頭が、自ら産み出した透明なシロップに覆われていくのがわかる。
 触れられてもいないのに、立派に成長を遂げているその部分が恥ずかしい。
 自慰では味わえない硬直感だ。
 舌先で可愛がられる乳首と連動し、ひくひくと反り返る。
「は……ぁ……ああ…っ」
 放置されるのがつらい。
 弄られたい――はしたない欲求を、必死に理性で押さえつける。
 小山内は舌をくねらせながら、葛藤する優月の顔をニヤニヤと眺め、左の乳首に移ると同時に優月の哀れな屹立に手を伸ばしてきた。
「……ウブなここも、だいぶ熟しているな。いまにも弾けそうだ」
「……ゃ……あっ!」
 ペニスの胴を握り込んだ手が、先端に親指を滑らせる。
 それだけで、じゅくじゅく蜜が湧く。
 ちゅ、と乳首を吸われ、優月は知らず知らずのうちにねだるように腰を突き出していた。
 思考を掻き乱されるような甘美な痺れが、爪先まで行き渡る。
「……も……ああっ、お許し……くだ、さい……」
 言葉とは裏腹に、声は素直に熟れていく。
「そそり立つこの肉も、乳首みたいに舐められたいだろう? きちんと言葉でねだってごらん。『私のぬるぬるの棒を、おしゃぶりしてください』――そう言うんだ」
 聞くだけでも羞恥で気が遠くなりそうな台詞を、すんなりと口にできるわけがない。
 優月はカッと頬を染め、唇を噛んだ。
 小山内の上目づかいの目が、不機嫌そうに細まる。
「優月、言うことをきくんだ。私は素直なおまえが好きだよ」
 これは契約なのだと、逆らうことは許されないのだと、男は言葉代わりに視線で告げる。
 優月は妾という己の立場を、改めて思い知った。
 小山内の寵愛を受けなければ、この身を差し出す意味がない。
 選挙には、なにがなんでも勝たなければいけないのだ。
 保科家の名誉のために。
 亡き父の悲願を叶えるために。
 そして、この世で最も愛しい人間を、自分の元に引きつけておくために……。
 優秀な秘書の彼は、優月に将来性がないとわかれば、きっと去っていく。
 彼――御堂を失うことだけは耐えられなかった。

(愚かな……)

 心の中で、別の自分がなじる。
 プライドはないのかと。
 優月は、あざける声をねじ伏せた。
 笑いたければ笑うがいい。
 一生に一度の恋。
 御堂を引き留めるためなら、自分はどんなことでもする。
「私の――」
 優月は瞳を揺らし、懸命に声を出す。
 小山内は優月のペニスを愛撫したまま顔を上げ、唇の両端を満足げに持ち上げた。
「ぬるぬるの、棒を……おしゃぶり、してください……」
「優月のピンク色のぬるぬるを、しゃぶってあげよう。たっぷりとな」
 勝ち誇った男の顔が股間に下りていく。
 そばで見られるだけでも恥ずかしいモノを、舐められようとしている。
 優月はそのおぞましい光景を視界に入れるのに耐えられず、両手を交差させ目を覆った。
 より強く握り込まれたペニスの先端に、熱い吐息がかかる。
 舌先が近づいてくるのが、はっきりと感じ取れた。
「い……や……」
 亀頭の先割れに、ぐちゅ、と新たな蜜が滲む。
 神経を集中させてしまうせいで、自分の体に起こるどんな些細な反応もわかる。
 欲情した息づかいで、相手の大きな舌が、ペニスが纏う蜜をねっとりと舐め取った。
「……は……あっ」
 味わったことのない強烈な快感に、優月は喜悦の声を漏らす。
 ペロペロと妙にくねる官能味を秘めた舌の動きに、ひとたまりもなかった。
「や……あぁっ」
 突っ張った両足の爪先が、内側に折れ曲がる。
 襲いくる快美な波に全身が硬直し、その反動でふっと力が抜けた瞬間、両膝をグッと左右に押し上げられた。
 どれほどはしたない格好になっているか――。
 羞恥に震えつつも確認せずにはいられない。
 顔面でクロスした手をずらす優月の視線を、小山内はすかさず手繰り寄せた。
「優月の恥ずかしい孔が、丸見えだ。初々しい蕾だな。見られただけで、ひくひく震えているよ」
 小山内は折り曲げた優月の足を痛いほど押し開きながら、臀部に張りついて、生唾を飲み込んだ。
 暴かれた谷間には、優月自身ですら目にしたことのない、ひそやかな窪みがある。
 ケダモノじみた男の視線に怯え、勝手にヒクついている。
 排泄器官だと自覚すると、たまらなかった。
「……っ、恥ずかしい……どうか、見ないで、ください……」
「もっと恥じらうといい。そのうち、それがまるごと快感に変わる」
 小山内は眼前のペニスを再び握り込み、奮いつくように口に含むと、ちゅう、と派手な音を立てて蜜を啜った。
「あっ……ゃ、ああっ」
 窄めた唇がゆっくりと上下して、優月を追いつめる。
 ひらめく舌が、ぬるぬると器用に肉棒を這い回った。
 優月は顔を隠す余裕もなく、シーツを掻き寄せ握り込む。
 体の至るところまで甘く痺れる。
 全身が性感帯になったように。
「は……お願い、です……もうっ」
 優月は呆気なく頂点へと押し上げられそうになる――それを避けてか、小山内は巧みな舌技から、ただペニスをじっと咥えているだけのもどかしい刺激に切り替えた。
 火の点いた体にとっては残酷だ。
 優月の右足と肉棒を支えていた小山内の手が離れ、布団のわきに用意していたピンク色のチューブを取り寄せる。
 優月は怯えた目で見つめた。
 いくら未経験でも、それが潤滑剤であることはわかる。
 今からされることも。
「麻酔効果があるゼリーだ。苦痛を和らげてくれる。大丈夫、恐くない」
「……ゃ……」
 小山内は優月の孔に、たっぷりと潤滑剤を塗りつけた。
 間を置かず、ゼリーを中に押しやるようにして指を埋めてくる。
 恐怖感で硬く絞り込まれている孔を無理矢理こじ開けて、さほど時間がかからずに指の付け根まで差し込んだ。
「は……っ、先生…っ」
「痛くないだろう? 私に任せて、力を抜きなさい」
「……ぁ、そこ、や……あっ」
 小山内に乳首をついばまれ、優月は舌たるい喘ぎを漏らす。
 真っ赤に熟れた左右の粒は、舌先で軽く弄ばれるだけで、優月を悩ましく身悶えさせる。
 麻酔効果があるというのは本当らしく、異物感はあっても、堪えきれないほどの痛みはない。
 小山内は媚肉を少しずつ押し広げ、優月が挿入に慣れてきたと見るや、二本目の指を埋めてきた。
「はっ……そ……んな……」
 苦痛は増したものの、やはり耐え難いほどではない。
 十分にぬるつかされた孔は、鉤状に折れ曲がる小山内の指に思うがまま掻き乱された。
 ぐちゅぐちゅと信じられないような卑猥な音が室内に響く。
「もっと大きなモノを呑み込むんだ。丹念に解さないとな」
 小山内はぐりぐりと舌先で乳首を転がしながら、せわしなく指を動かす。
「あぁっ……先生っ、恐い……」
「恐いのは最初だけだ。そのうち、楽に男を咥え込めるようになる。すみずみまで甘くとろけて、可愛く鳴いて私を欲しがる淫らな体に仕込んでやろう」
 男は優月の股間に頭を移し、空いた手で支えたペニスに舌を這わせはじめた。
 優月の期待感を煽ろうとしているのは明らかだった。
 ただ、じれったくしゃぶるだけ。
 生かさず殺さずの微妙な舌づかいに、射精間近の熱い体が悲鳴を上げないわけがない。
「……あ……はっ……おね、がいです……もうっ」
 優月は眦を濡らし、懇願した。
 先ほどと同じように、含んで吸ってほしい。
 ぎちぎちに拡げられた秘所が、落ち着きなく蠢く。
「だったら――」
 小山内は愛撫を切り上げ、それだけ言うと、すっと上げた顔を優月の耳元に寄せた。
 優月の秘所を解す作業は、まだ続いている。
 ぐちゅ、とさらにみだりがわしい音が鳴る中、男の意地悪な声が卑猥な台詞を鼓膜に注ぐ。
 またも優月に口にさせるために。
「……そ、んな……お許し、ください」
 小山内は先刻みたいに優月を急かすことはなく、ふっと余裕ありげに微笑んで、中断していたことを再び始めた。
 相手を追いつめるための、物足りない愛撫。
 言葉で脅すより、はるかに効果がある。
 ペロペロとやる気のない風に舐め回されるだけの優月のペニスは、痛いほどに膨張し、咥え込む指の動きと相まって優月を苦しめた。
「……ぁ、あっ、先生っ……もう……っ」
 焦らされるほどに淫らになる。
 ペニスを含み吸われたときの燃えるような悦びを頭の中でなぞり、優月はさらに昂る。
「もっと…っ、もっ……」
 優月はそれから先の言葉が出せない。
 おぞましく恥ずかしい台詞が、喉から出かかっている。
 この責め苦から解放されるための――。
 肉棒は絶え間なく蜜を噴きこぼし、優月を促す。
「素直に、ねだってごらん」
「……や……っ」
「思い切りミルクを出したいだろう?」
 小山内の陰湿で非道な追いつめ方に、優月は気が狂いそうだった。
 射精したい。
 今の頭の中には本能的な欲求しかない。
 理性が揺らいだ瞬間、唇が開いた。
「……とろとろの……先っぽ、吸ってください……」
「優月はいい子だ」
「うっ……ぁ、ああっ!」
 破裂しそうな亀頭が男の口に含まれ、音を立てて吸い上げられる。
 後孔で、指の弄りが激しさを増してきた。
 優月の反応で弱点を捉えたのか、小山内は感じる場所を的確に突いてくる。
「や……あっ、そ……こ……」
「ここが、気持ちいいのか?」
「気持ち……い……、あぁ…っ」
 優月は思わず男の頭を鷲掴みにした。
 どこまでも堕ちていく。
 淫らな本性をとことん引き摺り出され、このまま小山内の望みどおり淫欲に溺れる体に仕立てられていくのだろうか……。
 耐えられない――けれど、耐えるしかなかった。
 御堂という大事な存在のために。
「……もうっ……い……くっ、や……あっ」
 麻薬のような悦楽を目の前にちらつかされると、人はこうも簡単に陥落してしまうものなのか。
 プライドを投げ捨てて、蜜の海に存分に溺れ……。
 緋色の襦袢が乱れ、張りつく汗ばんだ体から、妙に甘酸っぱい匂いが立ち昇ってくる。
 人間を交尾に駆り立てる香りだと、本能的に知っている。
 優月自身ですら興奮してしまうその匂いに、小山内は素直に魅せられ、息づかいを荒くした。
 彼は指を抜きフェラチオをやめるや、優月の膝を押し上げる。
「私としたことが、これしきのことで我慢の限界とは……みっともないことだ」
 ギラついた眼差しでほくそ笑む。
 小山内は着物の裾を割り、取り出した灼熱の熱塊を、優月の蕾にあてがった。
「……ゃ」
 優月は反射的に後孔を引きしめる。
 恐怖感で鼓動が増す。
 拒絶しても無理なことはわかっている。
 男の手で丹念に解された窄まりは、たやすく抉じ開けられるだろう。
 けれど抗わずにはいられない。
「この孔に覚え込ませてやろう。クセになる男の味をな」
「う……っ、あっ……ぁ、ああ…っ!」
 笠が張る先端が、窪みにめり込む。
 指とは比べものにならない凶暴な大きさ、形。
 薬で貫通の痛みは軽減されているのだろう。
 鈍く、重い――それでも痛みには変わりない。
 入り口が裂けそうになる不安に、優月は取り乱してしまう。
「やぁ……あぁ……あっ、あ、やあっ!」
「……そんなに、力を入れるんじゃない」
 ぎゅうぎゅう締めつけられ、小山内もつらそうだった。
 眉根を寄せて、優月のペニスを握り込む。
 ゆるゆるとしごきはじめ、強張る体を解していく。
「……は…っ、先生……っ」
「何度か咥え込めば慣れてくる。抱かれずにはいられない体になる。そのときは自ら腰を突き出して、私をねだるんだ」
「や……ああっ、どう、か……もう……っ」
 血管が浮き出たグロテスクな肉杭をがっちり打ち込まれ、逃れられない。
 好きでもない男に汚されてしまうショックが、怒涛のように押し寄せる。
 優月はとめどなく溢れる涙で視界がかすんだ。
 これが夢であってほしい。
 しかし、そんな自分を嘲笑うように、リアルな苦痛と快楽が同時に襲いかかってくる。
 小山内は抽挿を次第に深めながら、根元まで埋まった。
「可愛い子だ。適度に締めつけて、心地よくなってきた」
「はっ……あ……」
「ヒクヒクしている。私のミルクが飲みたくてたまらないらしい」
「も……いく…っ、だめ……ぁ、ああ…っ!」
 ぬちゅ、ぐちゅ、と肉が擦れ合う淫靡な音が響く中、優月は身も世もなく喘ぎ続けた。
 もはや抗う気持ちは失せ、エクスタシーへと階を上りつめていく。
「……あ、あっ……あぁっ! もう、で……っ」
 赤いシーツの上で髪を振り乱す。
 いっそ苦痛に悶えたかった。
 快楽に支配されるのはつらい。
 気がつけば、自ら腰を振っている汚らわしい自分がいる。
 このまま際限なくとろけ、みっともない姿を晒し続けるなら、いっそのこと舌を噛んで死んでしまいたい。
 一瞬芽生えたその思いすら呆気なく捻じ伏せられて、ひたすら絶頂感を追う体は、最奥を突き上げられた瞬間、一気に弾けた。
「――――あ、あっ、あああっ!」
 優月の甘美な悲鳴を追いかけて、小山内も達し、腰の奥深くに埋まったまま規則正しくヒクついた。
 ずるりと小山内が遠ざかった途端、粘りを帯びた液体が蕾から溢れ出る。
「これは……純潔の証だな」
 揶揄しながらも、嬉しそうに小山内が呟いた。
 汗ばんだ太腿をとろりと濡らしていくものに、優月は乱れた息のまま目をやる。
 汚れた白濁に混ざる真っ赤な色。
 それは愛してもいない男に破瓜された現実を優月に突きつけ、涙を誘うのだった。





 せっかく愛してやった体を清めるのは許さない、と。
 意地の悪い小山内は、優月に情交後の汚れた体のまま帰宅することを命じた。
 体内にまだ精液が残っているような気持ちの悪さと、重くのしかかる疲労感。
 そんな優月を後部座席に乗せ、御堂が運転するベンツは港区白金台にある自宅へ向かう。

(……っ)

 麻酔が切れたせいで、シートにぐったりと預けた体に疼くような痛みが襲う。
 けれど――心の傷の方がはるかにつらい。
 闇に埋め尽くされた空は曇ってきたようで、料亭に入るまで輝いていた月も星も姿を潜めた。
 繁華街から遠ざかるにつれて、車道を走る車の数が減っていく。
 生気を失った目でぼんやりと見つめる窓の外には、白く眩い人工の光だけが流れていった。
 先ほど料亭の玄関に現れた赤い目の優月を見ても、御堂は顔色ひとつ変えなかった。
 相変わらず堅い銀縁眼鏡が似合うストイックな表情で後部座席のドアを開け、優月を丁重に車に乗せた。
 事務的な扱いが、なんだか悲しかった。

『……これからも、小山内先生から呼び出しがあると思う』
『承知しました』

 車が滑りだしてすぐの短い会話のあと、御堂とは言葉を交わしていない。
 星ひとつない暗い空のように、車内は重い沈黙に支配されている。

(御堂――…)

 優月は運転席に目をやるたびに、涙が滲んでくる。
 ……料亭での出来事を後悔しているのだろうか。
 御堂以外の男に抱かれた自分を許せない。
 あるいは小山内の慰み者になる決断をした自分を止めなかった御堂を、許せないのか。
 自分がどうして泣いているのかわからなかった。

(身勝手な……)

 皮肉にも、ほかの男に抱かれたことで、御堂への想いの深さを再確認させられた。
 愛している――その胸が張り裂けそうな感情の存在を。
 絶対に叶うことがない恋。
 同性という障害以上に、大きなものが立ちはだかる。
 彼は自分の両親を自殺に追い込んだ保科家の人間である優月を、怨みこそすれ、愛し返してくれることはないだろう。
 けれど優月は――。
 せつなくて、息もできない。
「御堂」
 勝手に唇が開いたと思ったら、呼びかけていた。
 心細げな声で。
 なにを言おうというのか。
 優月はハッとして口を覆いかけた。
 都合よく進行方向の信号が赤に変わり、大きな車体は心地いいブレーキの踏み具合で減速していった。
 一顧だにしないスーツの広い背が、優月の次の言葉を待っている。
「俺は――」
 危ういところで、優月は自分を押し留めることができた。
 おまえが好きだ、と。
 胸に忍ばせる禁断の一言を口にしてしまえば、今までの関係でいられなくなる。
 こうして毎日のように顔を見れ、話ができる幸せすら失ってしまう。
 絶対に告げてはならない。
 言いさした優月を気にしてか、御堂がバックミラーごしに覗くのをやめて、こちらを振り向いた。
 禁欲的でいて男の色香を隠しきれない。
 右目に小さな泣きボクロがある魅惑的な眼差しが、自分の感情を読み取ろうとしている。
 優月はまともに目を合わせられない。
「先生……いかがなさいましたか?」
「ごめん、御堂。大したことじゃないんだ。そのうち話す。今夜は疲れた……」
 優月は不自然にさまよわせた視線を、左手の窓にやる。
 歩道には人の姿がない。
 交差点に停まっているのは、自分たちの車だけ。
 恐いほど静かな夜だった。
「ごゆっくりお休みください。明日は午後からの登庁になります。正午にはお迎えに上がります」
「わかった」
 優月は応えながら、ようやく御堂と見交わした。
 涙で濡れた目元を拭い忘れている。
 優月が車内でも泣いていたことが、御堂にはわかるはずだ。
 なのに、彼は事務的な表情を崩さない。
 会話が終わるとすっと前方に向き直り、信号が変わるや車を発進させた。
 冷たいとすら思える冷静な態度は、優月のつらさを思い遣っての意図的なものなのか。
 それとも――。
 優月は目頭が熱くなり、俯く顔から上着の上にぽとりと涙がしたたり落ちた。
 さりげなく目元を拭い窓の外を見れば、そこには自宅近くの見慣れた景色がある。
 やがて。
 優月の心を反映するように、闇の中に降りはじめた雨が、物悲しい顔が映るガラスを静かに濡らしていった。

END
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